先日テレビで金融教育と称して株の買い方を紹介していた。
金融教育というと、どうしても株の話になりがちだ。
その番組が、たまたまそういう切り口で構成されていただけなのかもしれないが、
株を買うことは投資の選択肢の一つに過ぎない。そこに強い違和感を感じた。
個別株投資はプロとの戦い
株を売ったり買ったりして、儲ける事ができたらお金持ちになれそう———そんなイメージがある。
ネットで「1億円儲けた」なんて話を目にすると、自分も株をやらなければと思うかもしれない。
では、実際に株で儲けるということはどういうことか?
『株で勝った』という表現からわかるように、株式市場では誰かが得すれば誰かが損をして『負ける』、
つまり「ゼロサムゲーム」だ。
そこは百戦錬磨のプロ達が、一日中張り付いて戦っている。
プロも初心者も同じ株式市場で、同じ『お金を儲ける』という目的で参加する。
私たちには日常生活がある。
一日中株のことだけを考えて生きているプロとは条件が違う。
条件は圧倒的に不利だ。
もちろん株式の研究が趣味で、お小遣いを使って遊びで株式投資してるなら問題ない。
一般人が『儲けよう』として参加するには、あまりにも過酷な世界だ。
仮に、『足が速い人だけが大金を稼げる世の中』になったとしても、ウサイン・ボルトと同じレースに出たって、絶対に勝てるはずはない。
ペナルティを払わされて大損する可能性が高い。
そのように世界一の人達と戦っても勝ち目はない。
その上、顧客のお金を運用するプロである機関投資家も、しょっちゅう負けている。
彼らは最新の技術を使って、一分一秒を争って売り買いしているにもかかわらず、である。
人間の叡智を結集してもなかなか勝てない、それが株式市場だ。
仕事が忙しくて、自分が買った株のことなんて忘れているようでは、あなたのお金は株式市場に吸い取られる。
現在はデリバティブなどの難しい理論と、複雑なコンピュータ技術で株式市場は動いている。
アマチュアがアナログな方法で勝ち続けるのはほぼ不可能。
(売り買いのスピードが全く違う)
結果的に誰かが儲かった株は常に存在するが、誰が買っても儲かるわけではない。
売りと買いの”タイミング”が、最も重要で難しいからだ。
初心者こそインデックスファンド
素人が株式市場に参戦するのなら、儲かりそうな株を探すのではなく、インデックス投資信託のコツコツ積立投資一択だろう。
プロが運用するアクティブファンドは、インデックスファンドの利益率を超えることを目標としている。
アクティブファンドのうちインデックスファンドに勝っているのは、せいぜい10%~20%くらい。
長期になればなるほど、インデックスファンドの勝率はますます上がる。
そんなアクティブファンドに、投資家はかなり高い手数料をはらっている。
インデックスファンドは手数料がとても安い。
忙しい素人の私たちは、ほったらかしで平均点をとってくれるインデックスファンド一択であろう。
平均点といっても、毎月3万円を3%で30年間複利運用すれば、元本は1080万円だが運用益は668万円で、合計1748万円になる。
その間、常に平常心でいることができ、月々3万円は勝手に引き落としされていくだけだ。
NISA制度をぜひ活用してほしい。
「これは秘密の情報であなただけに教えます。この株は百倍になりますよ!」なんて話は絶対の絶対にこの世にない。断言できる。
だからそんな話をしてくる人は全員詐欺師だ。
株式市場は複雑でわかりにくい。
だから秘密の方法で上手くやれば儲かるかもと思い、詐欺師の言葉に騙されてしまう気持ちも分からないではない。
冷静に考えよう。
株式は数ある投資の中の一つでしかない。
金融教育=自分の人生設計教育
そしてなんと言っても、『自分自身が一番の資産』だろう。
お金は誰かに盗まれる事があるが、あなたの中身は誰にも盗めない。
金融教育=株教育ではない。
お金と冷静に向き合えるように、目先の夢のような利益ではなく、人生トータルでお金と向き合う方法を身につけることこそ、金融教育だ。
お金を増やすことにフォーカスが当てられすぎている。
お金をコントロールできなければ、たとえラッキーで大金が手に入っても、すぐに無くなってしまうだろう。
お金のコントロールというと難しく感じるが、『自分はどうしたいのか』の方向性を考え、自分自身を深く理解するということに他ならない。
お金の使い方は、その人の生き方そのものだから。
周りに流されず、自分はどのように生きていきたいのか、立ち止まって考えてほしい。
一番の資産である自分自身を、一番大切に考えてほしい。
そのためには、
・自分は将来どんなライフスタイルを送りたいか
・何にお金をかけることが自分の幸福につながるか
このような事をじっくり考えることから始めてほしい。
思考停止の「人生モデル」から離れる
国の経済が右肩上がりだった頃の戦略は、今は負けモデルだ。
例えば、『結婚したら住宅ローンで家を買う』
というの人生設計モデルを、思考停止で信じきっていないだろうか?
親や先輩から、「家は早く買うべきだ」と言われているかもしれない。
あなたの人生の最も大切な夢が、『若い時に住宅ローンを組んで家を買うこと』であれば、もちろんその夢を実現すべきだろう。
だが多額の住宅ローン返済は、資産形成と引き換えになってしまう可能性がある。
人生の土台を築くために、まず資産形成を優先する戦略も考えるべき。
それにはある程度の時間が必要だ。
「この株に投資すれば大金が手に入ります。面倒なことは全部こちらでやりますから今すぐお金を振り込んでください」
とか
「このマンションに投資すれば、節税になるし将来は年金代わりになるし、サブリース契約にすれば空室リスクの心配もありません。フルローンで投資しましょう」
とか
美味しい話に飛びつくと、資産形成は遠ざかる。
『行き当たりばったり』に、他人の提案に乗るのではなく、自分の未来を自分でデザインする力こそが最大の資産だ。
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